店頭で誰か買い手が来ないかと思っていた1台の時計は、ある日一人のお客に買われました。
机の上に置かれて、「さあ、これからガンバルゾ!」と動き出してから、「待てよ、1秒ごとに針を動かすとなると、これから先どうなるか」と考えました。
「1日に86,400回、1月で2,592,000回、1年では31,104,000回。ウハー、こんなに働き続けたら、たちまちガタがきてしまう」と思いました。そして、何とかひと休みしようと考えていたところ、幸いにも家の人が掃除をしているときに机から落とされてしまいました。
「チャンス!」とばかりに、時計は働くのをやめてしまいました。家の人は、こんなに簡単に止まるなんて欠陥商品かもしれないと思い、買った店へ持って行きました。特にどこも故障の箇所は見つかりません。店主から大事に扱うように言われ、時計は再び机の上に戻ってきました。
今度はどのようにして休みをとろうかと考えていると、子供がコップを倒し、水が掛かりました。
「今だ!」。時計はまた働くのをやめてしまいました。家の主人は、再度販売店へ持って行きました。
店主は「お客様、どこも悪いところは見当たりません。念のためにメーカーへ送り返してみましょう」と言って、代わりの時計を渡しました。働くのをやめた時計は、「これでしばらくのんびりできる」と思いながら眠っていました。
代わりの時計は、自分の仕事は1秒1秒正確に時を刻むことだと思い、一生懸命働き続けました。もし電池が切れたら入れ替えてくれるだろうし、汚れたらきれいに拭いてくれるだろう。大きな故障でなければ、お店で直してくれるに違いない。今の自分にとって大切なことは、考えても仕方のない先のことで悩むのではなく、自分の使命は正確な時間を守ることだと言い聞かせて、
毎日時間を刻みました。
一方のメーカーに回された時計は、工場がフル稼働のため、点検どころではありません。やがて時が過ぎ、最新鋭だった時計は、いまや誰も見向きもしてくれなくなりました。メーカーも、また送ったり、送り返されたりしてはかなわないと、特にどこも悪いところのない時計をスクラップにすることに決めました。