夏の高校野球が開幕し、連日熱戦が繰り広げられています。
高校野球を見ていると思い出すことがありまして、今日はそれをご紹介します。
何年も前のことですが、元倉敷工業高校野球部監督の小沢さんとお話しする機会に恵まれました。
小沢さんと言えば、倉工野球部を幾度も甲子園に出場させ、また数多くの有名選手を育て上げた、高校野球界の名監督・名将の代名詞とまで言われた方です。
その小沢さんから高校野球の懐かしい思い出や選手の指導の難しさを聞かせていただいておりましたところ、非常に興味深いお話がありました。
小沢さんが高校野球の監督現役時代に、かの有名な将棋の故大山永世名人とお話をされた時、大山名人が「小沢さん、私はあなたのことが羨ましくてたまりません」と言われたとのこと。小沢さんは同じ勝負師という立場にいるとはいえ、天下の大山名人から羨ましがられるなど、露とも思っておられませんでしたので、「どういうことでしょうか?」と尋ねられたそうです。 すると、大山名人のお答えは次のようなものでした。
「私は将棋という勝負の世界で駒を使いますが、その駒は生きておりません。確かに歩が金になったり、飛車が龍になったりしますが、駒そのものが自分で判断して動くことはありませんし、駒が私に戦術のヒントをくれるわけでもありません。ましてや、『おはよう、今日も頑張っていこう』と声をかけてくれるはずもありません。その点、小沢さんは選手という『生きた駒』を持っておられる。あるときには歩が銀になったり、飛車に化けたり、場合によっては王将になる可能性もあるわけですからその楽しみは私の使う駒とは比較になりません。ですから私は心底小沢さんが羨ましいのです」。
大山名人からそのことを言われて、まさに目からうろこが落ちた思いの小沢さんは、ご自身の指導に一層の責任を感じると同時に、選手たちの成長が以前にも増して楽しみになられたそうです。そして、挨拶をしてくれる選手やコーチがいることの幸せを改めて感じたと仰っていました。
野球に限らず、仕事や人間関係を通じて人間が大きく成長する様は、とても素晴らしく感動的です。
我々も青年部の活動の中で、お互いに励ましあい、指摘しあい、支えあい、それぞれの個性を生かしながら成長し続けているものと信じています。
楽しいから得られるもの、苦しいから得られるもの。どちらも貴重な経験ですが、体験しないと得られませんよね。逃げないから得られるものって必ずあると思います。
青年部の一番大きな「売り」は、「人間つくり」かもしれません。
鴨井尚志