鴨井です。
日々ご自身のお仕事に加え、青年部の活動に励んでおられる皆様に、心から敬意を払いたいと存じます。
以前、プロジェクトXでも取り上げられた、「薬師寺金堂復元プロジェクト」の中心人物、宮大工西岡常一氏の言葉について、我々にも参考になるお話を発見しましたので、ご紹介します。

宮大工の教え
「塔組(とうぐみ)は、木組(きぐみ)。木組は、木の癖組(くせぐみ)。木の癖組は、人組(ひとぐみ)。人組は、人の心組(こころぐみ)。人の心組は、棟梁の工人(職工)への思いやり。工人の非を責めず己の不徳を思え」

これは、神社仏閣の工事を専門とする宮大工の家に、昔から代々伝わる口伝(くでん)の教えだそうです。

 この教えを会社組織に当てはめてみましょう。棟梁とは宮大工の親分ですが、これは会社経営者、あるいは各部門や部署の長に置き換えられます。

 まず、この塔組を会社の組織と解釈してください。これは社員すなわち人間が組みます。木組は原文では材木の木ですが、これを気持ちの気に換えてみますと、「塔組は木組」が「組織組は気組」となり、その意味は、職場の大小に関わらず、皆の心が揃わなければならない、組織は人間の気を組むものである、と解釈できます。

 次は「木組は木の癖組」です。まっすぐな木だけでは、建物はできません。芝居が善人ばかりでは成り立たず、悪人が入らなければ劇にならないように、一軒の家を建てるにしても、まっすぐな木だけでは強度が弱くなってしまいます。まっすぐな木と曲がった木を使うとき、それをどのように組み合わせて強さと構造の美を出すかが宮大工の腕の見せどころです。

 人間でも同じです。癖があることは、悪いことではありません。何らかの癖を持った人間と癖のないまっすぐな人間とを組み合わせることで組織は強くなります。癖のある人間ばかりを集めても、また癖のない人間ばかりを集めても、どちらも能率は上がらないでしょう。組織の運営は、一つの芸術品を創っていくようなもので、様々な社員が持つ、それぞれの癖(個性)をどう生かすかが指導者に問われるのです。

 個性は、周りと調和したときにこそ、その美しさを発揮するといわれますが、口伝からは、人間と人間をただ物理的に配置するのではなく、その心と心を組み合わせることが大事だということが読み取れます。

 教えはさらに、「人の心組は、棟梁の工人への思いやり。」と続きます。

 宮大工の世界では、上に立つ者は厳しい言葉も使います。時には殴ったり蹴飛ばしたりすることもあるでしょうが、それに対して工人が「反乱」を起こさないのは、棟梁であるリーダーの工人つまり部下への思いやりが通じているからです。

 「上司の話を聞かない部下はいるが、上司の行動を見ない部下はいない」といわれます。見えないところで、目配り・気配り・心配りをすることが、お互いの理解を深め、大きな絆を作り上げます。上司と部下の間にも通じることだと思います。

 最後は「工人の非を責めず己の不徳を思え」です。部下の間違いを責める前に、まず自分の人間としての徳の足りなさを恥じる。これはまた、不思議と部下に通じるものです。上に立つ者はどこまでも謙虚でなければならない、ということを口伝は言っています。

 日本各地にある国宝級の木づくりの社寺建築物は、一棟数十万個の部材からなり、何百年あるいは千年以上の時を経て、今も朽ちることなくその美しさと機能を保ち続けています。千年先を考えてそれら建造物を手掛けた宮大工の教えは、単なる物作りのマニュアルにとどまらず、組織や人を作る原点を教えてくれます。
それぞれの会社のみならず、青年部の運営にも当てはまるお話でした。
カモ井加工紙株式会社
鴨井尚志