収穫の秋です。何年か前、お米を作っている農家の方とお話しする機会がありました。
60才を過ぎたそのおじさん曰く「おれたち百姓は、一生の内うまくて50回、下手すりゃ30回しか米を作れねえんだ」
そうです。最初の10年間は父親とか先輩のやり方を勉強して取り入れ、それを田んぼで活かすという段階。それが過ぎて、やっと自分の方法で本当にいいコメができたという年が少し多くなる期間が10~20年ぐらい。 それからやがて自分の次の世代へコメづくりを教えていく時代が10年か15年あって、それでおしまいだというのです。
おじさんが、「おれたちは1年1年が真剣勝負だ。コメを工場みてぇによう、何千回も何万回もつくってみてぇもんだ」と言った時、ハッとしました。当たり前の話ですが、コメはどんなに頑張っても1年に1回しかとれません。もちろん二期作のできる地方もありますが、基本的には年に一回だけです。いくら機械化が進んでも、バイオの力を借りてもコメの収穫は年一回です。工場で作る品物は、何回でも実験ができて、技術革新もできるのですが、コメの場合は、大自然を早回しすることはできませんから、そのリズムに合わせるしか仕方がありません。コメの生産も改良も本当に1年また1年と時間をかけていくわけです。
ここで考えてみてください。工業は農業と違い、同じ設備や技術を導入すれば、どこでもほぼ同じ効果を生み出すことができます。「今年は日照り続きで、自動車の出来がいま一つだった」「今年の夏は冷夏で、いびつな掃除機ができてしまった」ということはありません。しかし、農業は気象、地形、土質等々の自然条件と必死に戦いながら、 それでも安定した作物を供給しなければなりません。 まさに1年1年が真剣勝負です。
我々商工業に従事するものは、日頃の仕事の中で、些細なミスを犯したり、同じ失敗を繰り返したりしています。そしてそれに慣れ過ぎているのかもしれません。
やり直しの利く有難さに甘えることなく、我々はいかなるときも真剣に、そして必死に製品作りやサービスの提供に取り組まなければなりません。
やり直しの利かない状況。
もし1年に一度しか製品を作れないとしたら、もし1年に一度しかサービスを提供できないとしたら・・・
考えてみる価値はあると思います。