プロ意識1
出張先で仕事が遅くなり、疲れていたため、宿泊先の近くで食事をするところを 探しているとラーメン屋が目に入ったので暖簾をくぐった。 出張かばんを落とす ように座席に置き、 どのラーメンを注文しようかと悩んでいると、 愛想とは無縁 の顔をした店主が言った。「お客さん、随分疲れてるみたいだね。そんなときは、 あっさり味の方がのどを通りやすいよ。 その代わり少し塩を多めに入れといて やるよ」。 この店の売りは、味や値段だけではない。
プロ意識2
ガソリンの給油がてら、洗車をしてもらおうとガソリンスタンドのスタッフに声をか けた。 店員は、 「どうしても今日洗わなければならないのでしたら、洗車いたしますが、 先ほどの天気予報で昼から崩れると言っていました。明日の午後には雨も上が るようですし、 その後は数日間晴れるとのことですがどういたしましょうか?」 と 笑顔で対応した。 売らない営業もあるのだ。
プロ意識3
路線バスが止まった。乗り込んだ年配の女性が通路を進む。杖をつき、座席に つかまりながら、空いた席を探している。 発車までに時間がかかり過ぎているような。車内に落ち着かない空気が流れ始 めた。そんなとき、男性から声が上がった。「はよ、(バスを)出さんかい」。 どうするのか。 運転席に目を向けた瞬間のことだ。 「お待たせしておりますが、 お客さんが席に着くまで出発いたしません。このバスは、モノを運んでいるのでは ありません。人の命を運んでおりますので」。運転手のよどみのない声。押し黙る 車内。少しして女性が座った。「お待たせしました」。バスは走り出した。 駅前。皆が降りる。文句をつけた男性は、ばつが悪そうだ。着席に時間がかかっ た女性は、運転手を拝むように「ありがとう」。「安心して乗っていただくのが大切 ですから」と運転手が返した。 命を運ぶ者が決して失ってはならない「心」を見た。今日乗った人たちは、きっと またこのバスを利用するに違いない。